古代ローマと言えば、西洋の理性的文明の起源となった高度な文明というイメージだ。
これは間違ってはいないが、日本の世界史では劣った(近代へ繋がらなかった)中国文明との対比でローマが高度で理性的な文明として教えられている気配がある。まあ、ユーロセントリズムの一種である。
しかし、古代ローマもしょせんは古代文明にすぎない。
ルネサンスによって、西洋は暗黒時代を脱し、ローマ時代の水準へ戻ったというから、あたかもローマの英知が12,3世紀水準のように思われるのだが、これは間違っている。
むしろ、古代ローマは建築以外の側面では古代中国と酷似している。
まず、ローマでは臓卜というものが政治を左右する重大なものとして考えられていた。
これは占星術などと同じもので、単なる呪術もとい占いであるが、臓物を使って占った点が特異である。
これ自体はのちの西洋の外科的医学に繋がっていくのだろうが、ローマの段階では、中国における甲骨占いやバビロニアにおける占星術と大差はないどころか、キリスト教によって撲滅されるまで臓卜師はローマで大きな力を持っていた(つまり紀元後数百年は権力を持っていた。つまり、ローマVSササン朝でさえ、理性VS旧弊の戦いではなく、どちらも旧弊な古代の宗教観に染まっていたといえる)。
この話、知らない人が多いのではないか?
しかも、他の古代王朝と同じく、臓卜師は公職の場合が多い。
古代中国のように、古代ローマは元老院による民主主義やローマ市民権(市民権などというから勘違いする)による平等のイメージだが、実際には、巨大な官僚機構が領土を支配していた(なぜかローマの官僚機構に言及することが少ないのは意図的なのか? もしくは中国のように資料がないのだろう)。
巨大な土地を支配するのに強固な官僚機構がないはずがない(同様に、イギリスは世界を支配したので巨大な官僚機構があったはずだが、これに対する言及はほとんどないのはなぜか? 西洋の先進技術とキリスト教と啓蒙思想が世界を支配したというのは半分間違っていて、官僚機構なしに支配は出来ない。どんな思想が優れていようが、技術に抜きん出ていようが、システムがだめでは世界を支配できない)。
また、ローマ市民権も市民権などとはいう(キング牧師の公民権運動のイメージと近しく捉えてしまうが全く違う)が、早い話、ローマ人として認められるかどうか、つまり、単なる階級制、身分制の話でしかないのだ。
ローマ人が身分の頂点にいた、と言うだけの話で、別に自由でも近代的でもない。
元老院も有力者(貴族。ローマでは〇〇氏族という血族集団が実権を持っていた。この話もなぜか日本ではあまりされない)の集まりに過ぎない。
市民の支持があるからというのは建前でしかなく、単なる貴族政治である。
さらに、ローマでは女性の名前は一切記録されていない。
男尊女卑の程度は中国文明と大差なく、ペルシアやギリシャにおいては女性の名前が多く残っているのに対し、ローマや中国では、〇〇家の女、〇〇の妻のような形でしか女性の名前は残っていない。
おそらく女性の地位は古代文明でも最も低く、中国でさえ傾国の美女の話がたびたびあるが、ローマではほとんどなく、例のクレオパトラもそもそもエジプト王なのだから、これを傾国の美女と呼んでいいのか。
単にライバル国の元首ではないか。
戦争ではなく、ベッドの上でライバルがバトったという話ではないか。
そしてクレオパトラの名が残っているのは、もちろん彼女がエジプト王だったからだ。ローマ人の女ではない。
ゆえに、ローマ人は女性を産む機械以上には見ていなかったと思われる。これはひどい。
男性原理主義者のギリシャ人でさえクサンチッペはソクラテスの家を取り仕切っていたし、サッポーという詩人すら排出しているのだから、ローマ人の男尊女卑のひどさは際立つ。