アメリカに中国は勝てるのか。微妙なところだ。
個人的には勝てない気がする。
中国は歴史的には世界のトップだったことはある。確かにそうだ。
しかし、アメリカ合衆国は人類史上最強の帝国国家だ。
ローマ帝国もオスマン帝国も、あの大英帝国ですら合衆国の前ではカスみたいなもんだ。
アメリカは軍事・経済・情報・娯楽・思想・科学あらゆる分野で世界を支配している。これは誰もなしえなかった。
そもそも、世界はドル本位制なのだ。
これが一番のキモだ。
ある一国の通貨が世界経済を支配するなんてことは人類史上なかったんだ。
実際、戦前の段階では大英帝国はまだ健在だったし、ソ連の経済力と工業力はアメリカと大きく差があったわけではなかった。
アインシュタインはドイツ語で相対性理論を書いたくらいで、科学分野でも英語が支配的だったわけではない。日本でも医学はドイツ語だった。
アメリカは世界一の大国ではあったものの、圧倒的ではなかった。まだ人類史上よくある帝国のひとつだった。
しかし、戦後ソ連は衰退していき、ソ連の崩壊や大英帝国の瓦解、ドル本位制への移行などをもって、アメリカの覇権は確実なものとなった。
領土的には合衆国はローマ帝国や大英帝国に及ばないが、事実上日本と韓国は属国だし、ドイツやイタリアにはアメリカ軍基地があるので支配下においているようなものだ。アメリカに逆らうことができない国家はたくさんある。
最後の帝国だろう、とは思う。
中国がアメリカに勝てるか微妙、というのは、現代中国は漢民族の民族国家であって、かつての帝国中国ではないことだ。
帝国というのは明確な線引きが曖昧な国家だ。
アメリカ人というのは何者か? 黒人でも白人でもアメリカ人だ。
また、合衆国自体が州の独自性が強く、国家としての統一性にかけている。また、多くの属州(日韓など)を持ち、民族の支配域=国家とはなっていない。
ローマ帝国やオスマン帝国において、そこでは民族ではなく、帝国臣民(ローマ市民)かどうかが国家の構成員の意味だった。アメリカもそうだ。アメリカ人とはアメリカ市民権を有する人のことだ。
世界がナショナリズムへ傾き、民族国家だらけになった。もはや帝国と呼べる国家は合衆国しかない。
今言ったように帝国はナショナリズム(民族主義)とは距離がある。逆にいえば、帝国は常に膨張し続ける。帝国は世界を支配するまで発展することを使命にしている。中国は民族国家になりさがったので、世界支配の意味もモチベーションもない。
清がなぜベトナムとフランスの領有で争ったのか。清にはほとんどメリットがなかったはずだ。
メリットはなかったのだが、中華皇帝は世界を支配せねばならない使命があったのだ。
始皇帝が皇帝を名乗ったとき、オクタヴィアヌスが事実上皇帝に即位したとき、彼らの目的は何だったか。民族の栄光ではない。それは近代の産物だ。彼らの目的は帝国の拡大=世界の支配だった。
アメリカが異様なほどに世界情勢に干渉し、軍隊を送り、殺戮を繰り返すのも、帝国だからに他ならない。
日本なら、邦人保護でもないのに派兵する意味を感じないだろう。日本はネーションステートだからだ。
だが、アメリカは違う。ネーションステートじゃない。インペリアルステートなのだ。
帝国に歯向かうやつは八つ裂きにし(フセイン、カダフィー)、無法者でも臣従を誓うものは保護し(サウード家、イスラエル)、自分の支配域と目されるものは、領土外の問題でも首を突っ込む(北朝鮮と韓国。韓国は属国なので)。
かつての中華帝国もムーブそのものである。
また、アメリカの優秀な人間はプロパーではなく、インド人や中国人といった移民だったりするが、これもかつての帝国にありがちである。
ムガル帝国でタージハマルを設計、建造したうちの主要技術者はインド人ではなく、トルコ人、イラン人、ユダヤ人だったし、オスマン帝国がコンスタンティノープル攻略につかった大砲の開発者はハンガリー人、元朝の皇帝の顧問はイラン人だし、鄭和はイスラム教徒で先祖はがっつりアラブ名なので西の出身なの間違いない。
ローマ帝国もエトルリア人、ギリシャ人のエリート階級が統治機構を補佐していたし、アケメネス朝の軍事顧問はあろうことか敵対しているアテネなどと同じギリシャ出身という始末だ。
しかし、ネーションステートになると同じ民族しか登用しなくなる。
ネーションステート、民族自決以降、帝国はほぼ全て消えた。アメリカを除いて。
そして、アメリカが崩壊しなかった最大の理由はWASPが圧倒的多数派でなかったこと(むしろドイツ移民やアイルランド移民が多かった)だ。
ブラジルなどはポルトガル移民が圧倒的多数派だったし、逆にペルーではインカの末裔たちが多数派だ。また、混血が進んだせいでブラジル人が誕生してしまった。
これは混血の結果、漢民族が誕生し、今の中国が漢民族の民族国家になりさがったのと似ている。
また、中南米の場合、そもそも先住民が利用可能な土地にはだいたい住んでいたが、北米は人口密度が異様に低く、また近代科学なしに可住できる土地が少なかったため、基盤となるネーションがそもそも存在しないのだ(プエブロインディアンを除き、北米インディアンは土地に執着しなかったこともある)。
中南米の国旗を見ればわかるが、白人が支配しておきながら、国旗には太陽が描かれており、基盤としてどうしてもインカやマヤ、アステカといった先住民の痕跡を認めざるを得ないのだ。
そこにはどうしてもネーションのかおりがする。
しかし、合衆国は無臭に近い。民族のかおりはしない。
だから崩壊することは原理的にない。
本来ならば、グレート・スー・ネーションみたいなのがあり得たが、北米インディアンはあまりにも数が少なくノイズでしかないから無理だし、イスラエルVSパレスチナのようにはならない。
あれはパレスチナ人は近隣のアラブ人やムスリムから支援を受けられるが、ネーティヴアメリカンにそれはないし、パレスチナ人は数が多い。1000VS1のような絶望的な差ではない。