私には疑問があった。
かがくいひろしという絵本作家について、その身辺情報が全然きこえてこないばかりか、クソ大ヒットのだるまさんシリーズに続編がないことだ。奇妙に思っていた。
日曜美術館で謎が解けた。
50歳近くまで対外的な創作活動をほとんどしていないのだ。
本人が特別支援学校教諭だったので、その一環の創作活動はしても、商業活動は皆無だったようだ。
番組では「完成された新人」のように言われていたが、そうであろう。
あの作風は一作目から完成している。
だるまさんシリーズが2008年なので、私はてっきり若い作家だと思っていた。そうではなかったのだ。デビューが遅かったのだ。
松本清張と太宰治が実は同じ年だときいたときの衝撃に似ている。
え? まじかよ。と。
それもそのはず、太宰は48年に死んだ戦前作家だが、松本清張は41歳のとき1950年にデビューの戦後作家なのだ、作家活動した時期が被っていない!
番組ではかがくいひろしの情報に苦慮しているように見えた。
何かすごいエピソードがあるわけではない。
教員時代も、どこにでもいるような熱心な先生でしかなかったようだ。
そしてなにより、本人がもう死んでいるのだ。
若い作家だと思っていたばかりに驚いたし、活動期間がたった4年しかないのだ。
この4年で、日本絵本界の二大巨星こぐまちゃんシリーズとぐりぐらシリーズに匹敵するだるまさんシリーズを生み出したのだ。
絵本界は保守的な世界で、単巻の部数トップテンでいくと、いないいないばあ(1967)、ぐりとぐら(1967)、はらぺこあおむし(1976)、しろくまちゃんとほっとけーき(1972)、だるまさんが(2008)、ねないこだれだ(1969)、てぶくろ(1965)、おおきなかぶ(1966)、じゃあじゃあびりびり(1983)、きんぎょがにげた(1982)、となっている(30位まで探しても、かがくいひろし作以外の21世紀の作品はない)。
だるまさんの売り上げの異様さがわかっていただけるだろうか?
さあ、天才でなくて何なんだ。
ただ悲しい哉。天才は短命だった。
作家として生きた時間があまりにも短命すぎて、本人のインタビューも、エッセイもほとんどない。あるのは膨大な創作ノートだけだ。
このあたりの個人的エピソードがほとんどないあたりも天才っぽい。