転生ネタは要らなかったな、と思う。
だって、そのせいでアイが報われないのだ。
アイの望みは二人の愛する子が自分の死後も成長してくれることだが、この設定によって、この物語はアイが決して報われない話になってしまっているのだ。
だって、精神的に彼女の子は最初から転生者であって、「成長」などしないし、アイは自分の子の真実を知らぬまま死んだわけで、騙されたまま死んだのだ。
アイは子供たちに、「嘘ではない愛してる」をいったのに、それに対する子供たちの愛はないのだ。
子供たちは転生者であって、彼女の子ではないから、彼女を母親として愛することは絶対にないのだ。
これはひどい話ではないか。
作者は子供おるんか? いないんじゃないかな、と思った。
結果として、序盤で死んだアイの衣鉢を継ぐ話に物語がなりえない構造となってしまっている。
子供たちは転生者にせずに、母親が殺されてしまい、母親の衣鉢を継いでいく物語であるべきだった。
ゆえに、読めば読むほどつまらないとはそういうことだ。
この物語にはゴールがない、というか見えないのだ。転生者に過ぎない人間が、つまり、一ファンがかたき討ちをしようというのも無理がある。実際、主人公はそこまで熱心なファンには見えなかった。人生を救われたわけでもない。
しかし、転生者でないのなら、母親の仇討はわかりやすいし、ゴール足りうる。
あとこの作品には異様な思考様式が通底している。
アイはエキセントリックな人物として描かれていて、彼女の思考様式がおかしいのはいい。それはそういう人物だからだ。
しかし、病気で死んで妹に生まれ変わった子(ルビー)は「芸能人のコネ」を語るのだが、違和感がすごい。
だって、変じゃない?
病気の子だったら、いい顔といいスタイルと健康な体があったらアイドルになれるかな? って問うと思うんだ。
普通。なんで、芸能人の子供に生まれ、コネでアイドルになりたい、みたいな思想が出てくるのか。マジで違和感がすごかった。
アクアのほうも、いい大人が転生したはずなのに中二病みたいなペシミストっぷりの語りを続けて、これも違和感だ。
医者でいい大人なら、もっと達観しているはずじゃないか?
実際転生前はそういう風に描かれていた。
また、この中二病的な物言いが、「誰でも普段思っている程度のこと」でしかないのだが、それをすごく世界の真理を穿ってみているみたいな描かれ方をしており、んなもんみんな思ってるわと違和感がすごい。
芸能界が汚いなんてみんな知っているし、嘘でアイドルが笑っているのも常識だろう。むしろ、そう思っていない人間がいたほうがやばい。
アイが死んだあとも、この二人は案外悲しまない。
復讐を誓うような熱狂的なファンなら、韓国映画ばりにアイゴーと嘆かないと変じゃないか。アニメなんだからそれくらいの嘆きがないと変だ。
ここも違和感だ。
ルビーがアイドルになりたいといったときのアクアの返しも違和感ばかりだ。
なぜ第一声が「金もうけ」なのだろうか。
母さんは喜ぶかもしれないね、とか、おまえまで刺されたらいやだとか返すところじゃない? なんで金もうけがでてくるんだ???
そう、なんというか、登場人物の思考様式が全部おかしいのだ。およそまともではない。
かぐや様はギャグマンガとしてはクオリティが高かったが、これはこの異様な思考様式(作者赤坂アカの思想が漏れているのだ、というアンチ評はその通りであろう)がギャグとして機能している分にはよかった、うまくハマっていたということなのだろう。
実際、かぐや様もシリアスはくそつまらない。
また、悪意ばかりを強調しているのも違和感がすごい。
善意のシーンが異様に少ないのだ。
なぜアイが嘘で塗り固め、向いていなそうなアイドルをしていたのかは殺されるシーンの前後少しで語られるだけで、それ以外は、嘘だの、芸能の闇だの、そんなことばかり語られる。
社長もアイをスカウトしたときのシーンからすると、アイがついていこうと決めるのに十分な人物に思えるが、この回想以外ではそういうシーンはない。
とにかく、この作品は「ひっかかる」ことが多い。
かぐや様もそうだった。
最初はとても面白い作品だった。しかし、シリアス濃度が増え始めてから違和感が増大し、つまらなくなった。
というのも、推しの子と同じで、無駄な悪意だけで話を回そうとするからだ。
世界は善意で回ってはいないが、悪意でも回っていない。なにか変なんだよね。
アイを殺した人物にしても、物語上、アイを殺すという大役なのに何も背景がない。ステロタイプの狂ったファンといった感じだ。
ただ、アイというキャラクターは非常に魅力的なのは間違いがない。奇天烈な人物だが、回想シーンを見る限りはまっとうな人間にも見える。最後まで捉えどころがなかったが、それが魅力に見えた。
ゆえに、彼女が報われない話というのは私が期待したものではなかったし、多くの人が期待するものでもないだろう。いってしまえば、アイは事実上の主役なのだ。
物語を最後まで縛るのが彼女だ。彼女が物語の始まりであり、終わりである。そういう構造になっているはずなのに、転生者という要素を入れてしまったために、崩壊してしまっている。
これがこの作品に対する気持ち悪さの正体だと個人的には思う。