人間は現代的な暮らしを出来るように元々作られていない。人間はアフリカのサバンナで誕生した生物であって、コンクリートジャングルに生を受けた生命体ではない。
現代的な暮らしを捨て、原始に帰れといっているのではない。
飼い猫もそうだが、一度文明化した生活を享受すれば野良には戻れない。人間も同じだ。
しかしながら、人間のハードウェア部、つまり身体は、原始の生活に適応化されている。
なぜなら、人類は300万年もの間狩猟や採集で暮らし、ホモサピエンスになってからも、せいぜい農耕が始まったのは早くて8000年、日本のような遅めの地域ならば1500年と言ったところだ。
だが、ホモサピの歴史はもっと長く10万年だ。
人間は狩猟採集生活に最適化されている。
だから、現代病や精神病は、本来向いていない状況下にあるからに他ならない。
うどんを箸やフォークではなくスプーンで食うようなものだ。
歪みが生じて然り。
たとえば、生理に悩む女性は多いが、狩猟採集時代は月経開始が遅く18歳。
そこから子供を10人は産むし、授乳期間も3年と長かったので、人生のうちで生理の来る期間は合計10年もなかった。5年もなかったかもしれない。
だから、生理が重いというのは何も問題にならなかった。
これが問題になったのは、本来の人間の暮らしをしていないからだ。
エコノミック症候群だって、人間はそもそも椅子になど座らない。
地べたか、一段高い場所にあぐらで座るのだ。それか、寝そべっているわけで、長時間椅子に座るということ自体がおかしい。
社会関係に悩むのも、大規模な戦争があるのも、もともと人類の共同体の規模は100人くらいだったので、拡大家族みたいなもんで、家族の問題はあっても、社会問題などなかったし、戦争もほとんどなかった。
なぜなら、木の実は抗争のタネになるかもしれないが、動物は同じ場所にずっといるわけでもなかったし、そもそも、人類の数が少なかったので、争ってまで土地を得る必要はなく、移住すればよかった。
その移住の結果がイースター島まで人類を拡散させた。
虫歯もなかった。ショ糖なんぞ存在もしなかったからだ。
多くの伝染病もなかった。伝染病は大きな社会が生まれてから誕生した。そもそも伝染病が流行するには都市が存在しなければならない。太古に都市はない。
原始時代の人類の、衛生状態・健康状態は19世紀後半のヨーロッパと同水準だったと言われている。
農耕が始まってから、19世紀までは原始人よりも惨めな暮らしだったといえる。それは向いていない生活をしていたからだ。
いいか。
そもそも人類は農耕などしない。
汗水垂らして働いたりしない。
動物はそんなことしてないだろう!
もちろん、医学も科学もなかったので、「死にやすい社会」だったのは間違いないが、精神的・身体的にはなじんでいて悩みのない世界だった。病気がつらいかもしれないが、思い悩むことではなかっただろう。
悲しいかもしれないが、世界はそういうものだったのだ!
母猫は子猫の死を悲しむが、だからといって精神疾患にはならない。猫は文明的な場所に長時間おかれることでむしろ鬱を発症する。
20世紀になるまで、文明人が原始人より優れているのは医学と科学を知っていることだけだった。
それ以外の面、特に精神・身体の幸福という点では劣っていた。