非常に面白かった。ここ数年で一番面白い映画だったかもしれない。
日本映画離れした洋画じみた演出は素晴らしく、富野節がいかんなく抽出されているにも関わらず、原作ではアタオカでしかなかったギギが非常にかわいらしい女性として描かれ、魅力的だ
。
まあアタオカ女であるのは変わらないのだが、魔性の女、ケネスやハサウェイが惑わされるのも当然だなと思わせる圧倒的な説得力。
これは今までのガンダムにはなかった。ララァもクエスも人を惑わす魅力があるようには感じなかったが、ギギにはそれを感じる。
原作ではなんでこんな女に惑わされるんだ? と思ったが、本作では魔性。まさに魔性だ。
MS戦は正直何が起こっているのかわらない(画面が暗いのも手伝い)が、ミサイルを撃ちまくるMS戦は非常に目新しく、MS戦というよりもドッグファイトのようだ。
私は原作も読んだし、ガンダムの知識もあるが、それでもよくわからないシーンは多かった。この作品は説明しない。またそこが作品の雰囲気を壊さず、よく機能している。
ただ気になるのはここ最近のガンダムは無国籍性がなくなっていることだ。
もともと富野ガンダムはキャラクター名からもわかるように、無国籍感が強かった。ジオンのMSの名前もザクだのグフだのどこ国の言葉でもない。
連邦は若干現実にある名前になる(宇宙戦艦のマゼランとか)が、それでもジムとかボールとか簡素で、後年作品にあるようなあからさまなドイツ語シュツルムうんとかなんて名前の兵器はなく、トリアエーズなんてのは駄洒落だ。
本作でもハサウェイがアジア系であることに言及があったり(それが珍しがられること自体がおかしいと思う)、登場人物たちがほとんど白人(アジア人、インド人、黒人が主要人物としてはゼロ)で、白人が支配している、白人文化が支配的な世界(背景や調度品が白人文化の文脈のものばかりだ。一方、下層民はアジア・アフリカ的文化)として描かれている。
これはこれまでガンダム世界がほとんど扱わなかった人種というものを持ち出したユニコーンの罪だ。
私はこの傾向を好ましく思わない。
宇宙に人が出た時代に白人性を感じる世界観はちょっと変だ。
ジオンくらい無国籍であっていい。現代でさえ、アメリカの若者はK-POPをきき、マサイはがスマホで日本のアニメを見るのに、だ。
ユニコーン、本作、ジオリジンではそういった白人の価値観が基軸にある世界、白人が支配的な世界が描かれ、近未来感がなくなってしまった。
アナザー世界だからというのもあるだろうが、水星の魔女にはそういう言及は一切ない。
そもそも主人公の外見からして人種不明である。
あの世界では宇宙人か地球人かの対立で、人種は関係ない(もともとガンダム世界はそういう世界で、スペースノイドとアースノイドの対立だったはず)のだ。
脱線した。
本作はアニメーションとしての出来も出色だし、カーボーイビバップみたいにかっこつけてるけどしょせん日本アニメという感じではなく、外国製と言われればそうなんだろうなと思うような出来だ。
これはカメラワークのせいもあると思う。
日本アニメは主観的なカメラワークが多いが、本作はアメコミ的な舞台を撮影しているかのようなカメラワーク、映画的なカメラワークが多いせいだろう(個人的に、日本アニメの特徴の一つが主観的カメラワークだと思っている)。
また、先に述べたがMS戦がこれまでにない斬新なものだ。
水星の魔女もMSがビームを打ち合うのではなく、飛び回り跳ね回るという新機軸だったが、こっちはこっちで、ドッグファイトのようなMS戦で、ガノタの私の目にも新しく映った。
音楽も澤野弘之氏で氏の手掛けたアニメのサントラはいくつか買っているが、素晴らしい才能だと思う。
アルドノアなんて作品はどうでもいいけど、サントラだけ買った。
ユニコーンのようなガノタ向け全開の作品(あんなのは福井の同人作品だ!!)なら、興味がなかった本作だが、違った。
ロマンスだと思えば、女性も楽しめそうだとすら思った。
戦時下のロマンスだと思えば、戦争描写がよくわからなくても、ギギが「ひどい」とうめいたように、テロリズムや戦争のひどささえわかれば物語上問題がない。マフティーの思想などどうでもいいのだ。
なぜなら、私の妻はジオリジンは非常に楽しめたようだった。
戦争や闘争に引き裂かれるシャアとアルテイシアの物語として見ていたようだ。なので、戦闘メインのルウム戦はつまらなかったようだ。
ユニコーンやNTではガノタ向けばかりで、オルフェンズはごみで、ガンダムブランドも終わったかと憂いていたが、ハサウェイも続く二部がどうなるかはわからないが、ストーリーは決まっているわけで、このクオリティと雰囲気を維持できれば間違いなく名作だ。
水星の魔女もTVアニメでは初女主人公かつ百合路線、戦闘シーンは2回に1回くらいにすることでクオリティを底上げし、ストーリーも引きがうまく、次回が気になって仕方がないという風につくられていた。
SEED以来の傑作だ。後半はどうなるかわからないが。
これはガンダムブランドの復活ではないか。
ハサウェイも水星もガノタ以外、初見が見ても、またガンダムに興味なくても見れるようにできている。
これはGガンダムが宇宙世紀を知らなくても、ガンダムをよく知らないキッズが楽しめるようにしたことで、ガンダムブランドを復活させたのを思い出す。
Gガンがなければ、F91は売れずにTV企画はぽしゃり、Vは視聴率が異常に低く、ガンプラはあまり売れず、とっくに終わっていたはずだ。
そのせいかガンプラやゲームでもF91やVの扱いはくそのように悪く、GWと続いた復活の兆しに水を差したXも扱いが悪い。
バンダイの格付け的にV,X,F91は底辺なのだろう(そりゃシリーズを終わらせてしまいそうになった戦犯だし)。クロボンのほうが扱いがいいくらいだ。
今のガノタのボリューム層はGガンやSEEDを見ていた世代で30台~40台だ。
00以降ロクな作品がなく、あってもガノタに閉じたものだったので、10台20台のファンが不在だったはずだ。
水星はプラモの売れ行きもよく、視聴率も悪くない。新規ファンが増えるのはガノタとしては喜ばしい。
ひとつには水星も2クールしかないのに後半まで三か月あけたり、ハサウェイも無理して公開せずクオリティアップを優先したりと、作品を丁寧にやっているのも大きいと思う。
オルフェンズはロクにストーリーも企画もせずにアニメつくっていない? と思った。
ちなみに、私が嫌いなガンダムはスターダストメモリーとユニコーンで、どっちも評価がとても高いのだが、それはガンダムマニアウケに全振りだからで、あんなもん普通の人は楽しめないし、後付け設定も盛りすぎてて萎えるのも嫌いな理由だ。
ガンダム試作機たちはまだかっこいいが、ユニコーンに至ってはデザインもダサいので救いようがない。