日本人はヒーローが嫌いだ。
アメリカ人はヒーローが好きだ。
漫画やアニメの話じゃない。
たとえば、会社の不正を内部告発した人間に対し、日本の場合は称賛されることはほぼない。「馬鹿なことをして、仕事を失った人間」のような評価が大半だろう。
彼は会社という「お上」に逆らった思い上がりで、内部告発のせいで会社のイメージを落とし、同僚に損害を与えた「裏切りもの」という評価だろう。ほかにも会社に恩義を感じない人間ともいわれるだろう。
しかし、彼はアメリカならヒーローだろうし、何ならヨーロッパでも中国でもそうだろう。
自分が不利益を被るのも厭わず、不正を告発した正義感のある人物と評価される。
不正を続ければ会社はいずれ倒産した可能性だってあるわけで、同僚に損害を与えたではなく、「救った」と評価される可能性もある。
これはジャーナリズムでも顕著だ。
ロシアではプーチンを批判したジャーナリストが暗殺されまくっている。ポロニウムの件もあった。
しかし、不正を糾弾するやつは減らない。
なぜなら、彼らは日本でなら「一銭の得にもならないことをする馬鹿」だが、世界では「専横な支配者に一矢報いたヒーロー扱い」になるし、その扱いこそが報酬(日本人は金以外の報酬は無意味と考えている一方、「やりがい」とか「達成感」はなぜか価値があると思っている。不思議)であり、得なのだ。
死後も彼は称えられる。だから、暗殺を恐れずに発言できる。
実際、殺害されたジャーナリストの妻が、「夫は英雄だ。私は夫の意思を継ぐ」的なことを言っていて、夫が夫なら妻も妻である。
日本の妻ならこんなことをいうわけがない(夫を返してくださいとかいう被害者感情のみで語るはずだ)。まあ、この妻も意思を継ぐなら、暗殺されるかもしれない。しかし、彼女は恐れていない。
中国でも人権弁護士が逮捕され、その妻がTVに出ていたが、この妻も豪の者であった。
秘密警察に食って掛かり、共産党にあてつけるかのように目の前でデモをする。周囲は彼女を称賛していたし、協力的だった。
日本は政治的にはロシアや中国のような強権的な独裁政権ではないから、こういう例はないかもしれないが、オリンパスの内部告発事件など、典型的な日本のヒーロー嫌いだろう(彼を支持した大手マスコミはない。恐らく明日は我が身だからだろう)。
そもそも、オリンパスの告発者はカメラ好きで、オリンパスのカメラが好きだったら入社した人物。
アメリカでオリンパスのカメラを大量に売った実績もあり、社会評も高かった。
だから彼が告発した理由は、まさしくヒーロー的な理由だった。
カメラ好きだからこそ、滅私奉公で尽くしてきた会社が不正をしていることが許せなかった。きちんと改善して、胸を張ってほしかった。それは金のためではなかった。
しかし、内部告発=即裏切りものとして会社から認定された。日本では理由なく首にできないため、やめるように精神的ないじめが始まった。ここでやめるわけにはいかないし、出社拒否すればクビの大義名分を会社に与えてしまう。
彼は戦うことにした。日本ではこういった人は珍しい。
なぜなら、日本では忠義心から会社を告発してもそれは、悪である。
だから悪いのは内部告発者、いじめられて当然。会社は辞めて当然。という価値観が優勢だからだ(内部告発はしていないが、私も昔いた会社は解雇できないから、いじめのような精神攻撃をされて、ノイローゼになり、無理やり退職願を書かされた)。
これは日本における忠義心の問題でもあるが、忠義=どんな無理難題でも引き受けるである。
中国では諫言するのが真の忠義というのがあるが、日本では一般的ではない。だから忠臣蔵が大好きなのだ。大石内蔵助はどう考えてもは人間のクズだが、「主のために、復讐した」というのが絶賛されるのだ。
忠臣蔵は日本的価値観を端的に表す最大の例のひとつだ。
日本人がヒーローや正義が大嫌いであることがよくわかる。
むかしは大晦日あたりに絶対やっているくらい大人気だったけど、最近はそうでもないらしい。
日本の価値観が変わってきたいい傾向に思う。